コンペティション受賞者のことば

[1]概況・総括

 2009年度統計関連学会連合大会は,応用統計学会,日本計算機統計学会,日本計量生物学会,日本行動計量学会,日本統計学会,日本分類学会の共催で,2009年9月6日(日)から9日(水)まで同志社大学今出川キャンパスおよび京田辺キャンパスで開催されました.2つのキャンパスでの市民講演,チュートリアル,学術講演,さらには,京都に長く住む地元の先生をして「Deepな京都」と言わしめた懇親会により,古都を堪能されたことと思います.

 本大会は,実行委員会,運営委員会,プログラム委員会の適切な協調と適度な分離により準備・運営できました.今回から業務支援いただいた業者の熟練したサポートもあり,大きなトラブルもなく終了できたと思います.それにもまして,講演者,座長,参加者の皆様のおかげで学術的にも高いレベルの大会になったと思います.関係された皆様方に心から感謝いたします.

 プログラム委員会では,業務をいくつかに分けて全員で分担いたしました.以下に,市民講演会,チュートリアルセッション,コンペティションセッション,統計分析・データ・教育ソフトウェアセッションの各担当責任者により,それぞれの担当についての報告をしてもらいました.別に掲載した運営委員会からの報告およびコンペティションセッションの受賞者のことばと合わせて御高覧頂ければ幸いです.

(プログラム委員会委員長 水田正弘 北海道大学情報基盤センター)

[2]市民講演会

統計関連学会連合大会における社会貢献の一つとして,9月6日(日) 16時〜18時半に同志社大学クラーク記念館(今出川キャンパス)において市民講演会を開催しました.これは,統計学を少しでも身近に感じてもらい,一般社会に対して広く普及・浸透させることを目的に連合大会が主催して例年開催してきたものです.

今回は「学力調査と統計 〜全国学力・学習状況調査の現状と統計的側面からの検討」をテーマとしました.近年の学力低下に関する議論を端緒として,文部科学省では平成19年から毎年4月に「全国学力・学習状況調査」を実施し既に3回が終了しています.この調査は小学校6年生と中学校3年生の全員を対象とするもので「悉皆調査」と呼ばれています.当初から調査の設計や,得られたデータをどのように教育現場にフィードバックするか等,種々のフェーズに対して議論があり,現在でも多くの国民が関心を持っている調査でもあります.

 そこで本講演会では,この「全国学力・学習状況調査」を素材に統計的な側面から,学力調査の役割や課題,活用方法についての議論を深めてもらうことを目的に企画しました.学力調査にまつわる設計から調査実施,解析に至るまでの種々の作業について,最新の研究成果を以下の4名の識者に解り易く講演していただきました(敬称略).


講演者:
 1) 藤井 宣彰 (国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部)
    「全国学力・学習状況調査の概要」
 2) 盛永 俊弘 (京都府向日市立西ノ岡中学校)
    「全国学力・学習状況調査の意義と活用法」
 3) 土屋 隆裕 (統計数理研究所)
    「全国学力・学習状況調査の分析と活用」
 4) 安野 史子 (国立教育政策研究所 教育課程研究センター 基礎研究部)
    「大規模調査の今後の展望」
企画・司会:
   林 篤裕 (九州大学 高等教育開発推進センター)


 国の重要文化財でもあるクラーク記念館の重厚な雰囲気と歴史を感じながら,立ち見を含めて110名以上の聴衆が熱心に講演に聴き入りました.後半の全体討論でも,予定された時間を越えて最後まで本質を突いた質問と意見交換が続き,関心の高さを改めて認識すると共に,もう少し長めに時間を設定しておけば良かったというのは贅沢な反省点かもしれません.

 このように盛会であったことから,当初の市民に対しての目的は達せられたと考えられますし,加えて,連合大会出席者には学力調査が統計の応用事例の一つとして興味深く捉えていただけたのではないかとも感じております.当日の配付資料の内,ご了解いただけたものについては,Webに掲載しておりますので,ご興味がおありの方はご参照下さい (http://www.jfssa.jp/taikai/2009/program.html).

 最後になりましたが,本講演会ではこの企画の準備段階から当日の会場設営・片付けに至るまで多くの方々にご協力をいただきました.ご講演者,参加者の方々を含めてこの場を借りて皆様方にお礼を申し上げます.この度はどうもありがとうございました.

(担当責任者 林 篤裕 九州大学高等教育開発推進センター)

[3]チュートリアルセッション

 今年度のチュートリアルセッションの開催に当たって,各学会選出のプログラム委員を通じてテーマを募ったが,特定のテーマの希望はなかったため,プログラム委員会のチュートリアル担当委員でテーマを検討した.その結果,計量生物学と経済関連の分野で1つずつテーマを設定することなり,講師の先生方とも相談し,「ノンパラメトリック回帰入門」と「DSGE モデルとVAR モデルの計量分析−MCMCのマクロ金融政策への応用」という2つのテーマでチュートリアルセッションを行うことになった.

 これまでチュートリアルセッションは,2ないし3のテーマを設定した上で,パラレルで行ったり,時間をずらして複数のセッションに参加できるようにしたり,それらを組み合わせたりと,様々な試みが行われてきた.今回は,時間的な制約も考慮し,シンプルに2つのパラレルなセッションを設定し(いずれも13:00〜15:45),1つのテーマに集中して参加してもらえるようにした.
 それぞれのセッションの概要は以下の通りである.

[テーマ1] ノンパラメトリック回帰入門

講師: 竹澤 邦夫(中央農業総合研究センター)
オーガナイザー: 松井茂之(統計数理研究所)

線形回帰,平滑化スプライン,局所回帰,加法モデル,ヒストグラムの平滑化に関する初歩的な技法と陥りやすい間違い,さらには,Rパッケージを用いた解析での注意点について,丁寧かつ明快な解説がなされた.


[テーマ2] DSGE モデルとVAR モデルの計量分析−MCMCのマクロ金融政策への応用−

講師: 渡部敏明(一橋大学経済研究所),藤原一平(日本銀行)
オーガナイザー: 勝浦正樹(名城大学)

近年,各国の中央銀行などで金融政策の効果を測定するのによく利用されているDSGE (Dynamic Stochastic General Equilibrium) モデルについて,その経済学的な側面や利点について解説し,さらにMCMC (Markov chain Monte Carlo) を利用したモデルの推定について詳細な説明がなされた.モデルが登場した歴史的な背景や,MCMCについての一般的な基本事項なども含め,初心者にもわかりやすく説明がなされた.


 セミナー当日の聴講者は,テーマ1が約140名,テーマ2が約50名であった(途中の入退室もあるため概数である).この人数が多いか少ないかは評価の分かれるところであろうが,実行委員会に大きめの教室を用意していただいたため,参加者が資料などを広げても余裕をもって講演を聴くことができ,非常にありがたかった.実行委員会のご配慮に感謝したい.またいずれのテーマも配布資料が周到に準備されており,今後自分で深く研究しようとする場合の文献等も適切に示され,参加者の満足のいくものであったと思われる

 ただし,参加できるセッションが1つでよいのかといったチュートリアルセッションの構成や,テーマを数年間でどの分野からバランスよく選定するかなどは,今後の課題であるだろう.しかしながら,講師の先生方のわかりやすい丁寧な説明のおかげで,今年度のチュートリアルセッションは成功裏に終わったといえよう.講演を快く引き受けていただいた講師の方々に深く感謝する次第である.

(担当 足立浩平 大阪大学,折笠秀樹 富山大学,勝浦正樹 名城大学,松井茂之 統計数理研究所)

[4]コンペティションセッション

 統計関連学会連合大会のコンペティション講演は今年で7回目を迎えました.対象者は,平成21年4月1日時点で満30歳未満のいわゆる若手研究者(大学院生,教員,社会人等を問わない)です.大会における連名講演の場合は,コンペティション対象者は実際に口頭発表した方としました.

 コンペティション講演を申し込まれた方皆さんに大会当日に講演していただきました.審査方法は,昨年と同様に当日の口頭発表に対して,審査員およびコンペティションセッションの参加者の記名投票に基づき,総合評価で行いました.特別審査および一般審査での評価は,共に,A,B,Cの3段階評価(A:受賞に値する,B:受賞としてもよい,C:受賞に値しない)を用いました.なお,講演者ならびに共著者は自身への投票はできないことにしました.

 評価は,研究内容のみならず,発表者各自が工夫をして,うまく内容を伝えられたか,質問に的確に答えられたかという発表の仕方も含め,全体としての素晴らしいプレゼンテーションになっているかを評価の対象としました

 コンペティションセッションは9月7日(月)の午前,午後(1),午後(2)に夢告館のC会場で行われました.講演数は15件でした.特別審査と一般審査のそれぞれに対して,Aを2ポイント,Bを1ポイント,Cを0ポイントとし,講演者ごとに有効投票数で平均点を算出し,総合評価をしました.選考は,これらの点数に基づき,プログラム委員会で行いました.最優秀報告賞は1名,優秀報告賞は4名に授与することにしました. 2009年度統計関連学会連合大会の最優秀報告賞は,林賢一さんに,優秀報告賞は,大東健太郎さん,熊坂夏彦さん,首藤信通さん,そして,藤井陽介さんに決定いたしました(五十音順).大会中9月8日(火)に懇親会(The Garden Oriental Kyoto)において,受賞者を発表して表彰し,それぞれ賞状と副賞が統計関連学会連合大会理事長より贈呈されました.

 コンペティション講演をされました全員が,研究内容や発表の仕方等,素晴らしいプレゼンテーションでありました.昨年のコンペティション報告にも書きましたが,連合大会のような大変権威ある大きな学会でコンペティション講演することは,受賞する,しないにかかわらず,若手の皆さんにとって大変に有益であり,今後の研究活動への大きな励みになると思います.若手によるコンペティション講演は,毎年,大変多くの方が関心を持って注目しております.多くの方に自分(自分の研究と自分自身)を知ってもらう,またとない絶好のチャンスであります.

 権威あるジャーナルへ論文を掲載することは重要なことでありますが,それとともに,若手の皆さんにとって,多くの方から一躍注目される立派なコンペティション発表をすることも大変に重要なことであります.今回コンペティション講演をされました方の中から,将来世界のトップクラスの統計研究者が誕生するものと確信しております.これからも若手の皆さんには,是非コンペティション講演を考えていただきたいと思います.

 最後に,コンペティション講演を申し込まれました若手研究者の皆様,座長の先生方,審査に参加されました皆様,そして,コンペティション講演に関する準備等いろいろとご尽力いただきました大会運営関係者の方々へ心よりお礼申し上げます.

(担当責任者 瀬尾隆 東京理科大学理学)

「受賞者のことば」は別欄に掲載されています.

[5]統計分析・データ・教育ソフトウェアセッション報告

 2009年度統計関連学会連合大会のセッションの一つとして,「統計分析・データ・教育ソフトウェアセッション」(座長:成蹊大経済・新村秀一,東洋大経済・渡辺美智子,オーガナイザー:東洋大経済・渡辺美智子,長崎大 アドミッションセンター・吉村 宰)が,2009年9月8日(火),午前10:00〜12:00,午後13:10〜15:10に,2つのセッションに分かれて,同志社大学京田辺キャンパス夢告館 MK203(C会場)で開催されました.

 統計分析・データ・教育ソフトウェアに関係する多くの関連企業や政府関係機関のご協力があり,合計13件の講演となりました.プログラムは次の通りです.


 本セッションにおいては,データ提供の環境,統計分析ソフトウェア,統計教育ソフトウェア,書籍に関する最新の内容のご講演をいただき,非常に有意義な情報交換の場となりました.ここに,ご協力いただいた企業および政府関係機関,研究者の方々に御礼申し上げます.

(担当責任者 渡辺美智子 東洋大学経済学部)

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