ノンパラメトリック回帰は統計学の理論としての厳格さと実用的な価値が見事に調和した分野である。今回のチュートリアルでは、多くの方々にその魅力を知っていただきたいと思う。主な内容は、線形回帰の基本概念、ノンパラメトリック回帰の意義、平滑化スプライン、局所1次式回帰、加法モデル、ヒストグラムの平滑化、Rによるノンパラメトリック回帰である。ノンパラメトリック回帰の初歩的な技法とその背景についての解説に加えて、間違いやすい概念、既存の方法の問題点、Rパッケージを使う際の注意点などにも触れる。この分野は親しみやすく感じられる反面、初歩的な間違いに陥りやすい。また、Rの登場と発展によってノンパラメトリック回帰が飛躍的に手軽に利用できるようになったけれども、正しく使わなければノンパラメトリック回帰の価値を享受することはできない。そこで、今回のチュートリアルは、数学としての明解さを維持しつつ、直感的な理解にも重点を置いて、理論と実務の両面を推進することを目指す。
金融政策の効果の分析に用いられるモデルに多変量自己回帰(Vector Autoregressive; VAR)モデルと確率的動学一般均衡(Dynamic Stochastic General Equilibrium; DSGE)モデルがある。DSGE モデルは消費者や企業の効用や利潤の動学的最適化を基礎とするモデルで、ノーベル経済学賞を受賞したKydland-Prescott の新古典派的なリアル・ビジネス・サイクル・モデルに端を発するが、その後、現実のマクロデータの変動によりフィットするように、価格・賃金の硬直性、消費に関する習慣形成、投資の調整コストなどの市場の摩擦を導入したニュー・ケインジアン・モデルへと発展している。DSGE モデルは経済理論に基づくので、 経済理論に基づかないVAR モデルと比べてショックの識別がしやすいというメリットがある。DSGE モデルを用いて金融政策の効果を分析する場合、古くは、パラメータに適当な値を与えていたが、近年では、マルコフ連鎖モンテカルロ法(Markov chain Monte Carlo; MCMC)を用いてベイズ推定することでパラメータと金融政策の効果を同時推定するようになってきた。
VAR モデルとDSGE モデルを両方用いる分析手法もある。これは、DSGE-VAR モデルと呼ばれ、 具体的には、マクロデータのサンプル数をTとすると、DSGE モデルから発生させたλT個のデータを用いてVAR モデルのパラメータの事前分布を設定する。λの値を大きくすると、DSGE モデルからの情報をより多く使うことになるので、パラメータλの値を変えてモデルの当てはまりの良さを比較することにより、DSGE モデルの情報がVAR モデルの推定にどの程度有用であるかを判断できる。
本講義では、 こうしたDSGE モデルやDSGE-VAR モデルについて解説を行うとともに、これらのモデルの分析に必要なベイズ推定、MCMC、事後オッズ比に基づくモデル選択などの計量手法についても解説を行う。また、日本のマクロデータへの応用例についても紹介する。