2010年度統計関連学会連合大会は,応用統計学 会,日本計算機統計学会,日本計量生物学会,日 本行動計量学会,日本統計学会,日本分類学会の 6学会の共催で,2010年9月5日[日]から8日 [水]まで,都の西北の早稲田大学早稲田キャン パスで開催されました.今回は,5日から6日に かけて,第3回横断型基幹科学技術研究団体連合 総合シンポジウムも同期開催され,6日は連合大 会のセッションと相互乗り入れとなり,統計関連 学会以外の学会に企画して頂いたセッションもあ り,大変賑やかな大会となりました.講演者,座 長,企画セッションオーガナイザーの方々,そし て参加者の皆さまのご協力で白熱した議論もみら れ,統計関連学会以外の方々に対しても統計科学 の面白さ,重要性をアピールすることができたと 思います.運営面でも,実行委員会,運営委員 会,プログラム委員会の3委員会による準備・運 営も板についてきた気がします.私のような大雑 把な人間でも,大過なく大会を終了できたのも3 委員会のチームワークと早稲田大学関係者並びに 委託業者さんの大きなサポートのお陰だと思いま す.加えて横幹連合シンポジウムの運営関係者に も種々プログラム編成上でご協力頂いたことを報 告致したいと思います.改めて今大会を支えて下 さった全ての皆様方に心から御礼申し上げるとと もに,統計関連学会連合大会が日本を代表する統 計の集いとして今後も発展することを強く期待い たしたいと存じます.
以下では,プログラム委員会が担当した企画に ついて,各担当者から報告して頂きます.別途. 運営委員会の報告,コンペティションセッション 受賞者の言葉を含めて,本大会の報告とさせてい ただきます.
(プログラム委員会委員長 椿 広計 統計数理研究所)
恒例のチュートリアルセッションは,昨年と同 様に2つのパラレルなセッションを設定し(いず れも13:00〜16:00),1つのテーマに集中して 参加してもらえるようにしました.今回は統計科 学において近年重要なテーマとなっている標本調 査とベイズ理論についてのチュートリアルセッシ ョンを設けることとし,講師の先生方と相談した 結果「標本調査法への統一的なアプローチと新展 開」と「ベイズ理論の現在」という2つのテーマ でチュートリアルセッションを行うこととしまし た.それぞれのセッションの概要は以下の通りで す.
講師:土屋隆裕(統計数理研究所)・星野崇宏
(名古屋大学)
前半では具体例を通じて,比推定や回帰推定な
どのよく知られた推定量がキャリブレーション推
定という新しい枠組みから統一的に議論できるこ
とや,補助変数を用いた事後調整への応用の仕方
が丁寧に紹介されました.さらに,その一部につ
いてはR による解析法の紹介も示されました.
後半では最近の標本調査法における重要なトピ
ックである不在や回答拒否などによる無回答に対
する対処法として事後的な調整法について,欠測
モデルの枠組みからの議論と具体的な調整法の紹
介が行われました.セッションの最後には質問時
間が設けられ,キャリブレーション推定における
最適化の意味付けや,事後的な調整法にどのよう
な変数を用いるべきかについて,参加者も含めた
活発な議論が行われました.
講師:駒木文保(東京大学)
ベイズ理論に基づく予測分布の構成問題と,そ
の問題に対する情報幾何的な接近の解説,次いで
モデル選択におけるベイズ法の問題点についての
解説がなされました.関連する研究も含めて,丁
寧かつ明快な説明がなされ,有意義なチュートリ
アルだったと考えます.チュートリアル終了後に
熱心に質問をしている複数の若手の参加者の姿が
見られ,充実したものであることが伺えました.
一昨年はチュートリアルセッションと市民講演
会がパラレルで開催されていましたが,昨年以降,
市民講演会の前にチュートリアルセッションを開
催しています.一昨年のように2つのセッション
を前後に設けることでどちらにも参加したいとい
う参加者の声に答えるべきかどうかや,テーマを
どの分野から選定するべきかなど,来年度のチュ
ートリアルを企画する前にプログラム委員会で議
論する必要があると考えられます.
セミナー当日の聴講者は,テーマ1が約100名,
テーマ2が約150名でした(途中の入退室や入れ
替わりもあるため概数です).実行委員会には大
きめの教室を用意して頂きましたが,両方のセッ
ションとも席がほぼ埋まる盛況で,今年度のチュ
ートリアルセッションは成功裏に終わったといえ
ます.講演を快く引き受けていただいた講師の
方々,およびチュートリアルセッションのために
ご尽力頂いた実行委員会,運営委員会に感謝申し
上げます.
(プログラム委員 星野 崇宏(名古屋大学), 山本 渉(電気通信大学))
今年の市民講演会は,「統計で経済・社会の深 層を探る」をテーマとし2名の講演者を招待し, チュートリアルセッション終了後早稲田大学国際 会議場(井深大記念ホール)で行われました.そ れぞれの講演の概要は以下の通りです.
講演者 田中愛治(早稲田大学政治経済学術院)
本講演では,近年の国政選挙における有権者の
投票行動についてデータに基づく報告がなされ,
各選挙における自民党や民主党の勝因・敗因など
が詳細に分析されました.特に近年の無党派層を
積極的無党派層,消極的無党派層に大別し,その
行動様式などについて報告がなされ,本来各政党
はどのような戦略を採るべきであったかというこ
とと,どのような責任政党が必要とされているか
ということが示されました.
講演者 吉野貴晶(大和証券キャピタル・マーケ
ッツ株式会社 金融証券研究所)
本講演前半は身近な生活情報が景気ないしは株
価と関連性があるか否かについて,講演者の仮説
を基に検討した様々な分析が紹介されました.後
半では,企業の業績の変動が大きい程,アナリス
トによる業績予想も困難になることを示すととも
に,この変動が利益の持続性とも関連し,業績変
動が大きく直近の業績の悪い企業には回帰効果が
働き,投資のチャンスがあることを示しました.
2つの講演ともに社会の重要な意思決定に,今
後統計を積極活用することの必要性を強く感じさ
せるもので,120名ほどの参加者も熱心に聴き入
っていました.講演資料については,順次連合大
会のウェブページにアップされる予定です.なお,
本講演会は,科学研究費基盤研究(A)「科学的
政策決定のための統計数理的基盤整備とその有効
性実証」(代表者:北川源四郎)の支援を受けた.
大変ご多忙の中本講演を快諾し,興味深い話題を
提供して下さった両講演者と素晴らしい会場を提
供して下さり,運営を支援して下さった早稲田大
学関係者の皆様には,心から感謝申し上げたいと
考えます.
(プログラム委員会委員長 椿 広計 統計数理研究所)