連合大会企画委員会委員長
狩野 裕 (大阪大学)
統計関連学会連合が連合大会を開催するようになって今回で6回目を迎えます.回を重ねるごとに大会規模はほぼ単調に増大しており,神戸大会も前回の仙台大会を上回る参加者を得ました.具体的には,大会参加者は869名で,その中で学生が197名を占めました.チュートリアルセミナーにも400名近い方々に参加して頂きました.大会初日に台風9号が関東地方を直撃し新幹線が止まり空路もストップしましたが,幸いにもその影響は大きくありませんでした.参加者が増加した理由として日本計算機統計学会と日本行動計量学会が主催学会となったことがあります.加えて,すばらしいハード(大会会場)を準備して頂いた大会実行委員会,スムーズな受付業務に代表される有能な事務局の方々,そして,大会のソフト(プログラム)を担当した企画委員の献身的な働きがあってのことだと思います.もちろん,我々はあくまで黒子役であって,大会参加を促すような魅力ある講演を提供してくださったのは主催・協賛学会の会員の皆様であることは言うまでもありません.この場を借りてお礼を申し上げます.
昨今,社会が必要としない組織は存続することはできません.学会も例外ではなく,アクティビティが低くその必要性を訴えることのできない学会は自ら退場を選択することになるでしょう.連合の意義は二つあると思います.一つは,連合することでシナジー効果を生み学会の活性化を図ること,他の一つは統計科学の衆知を集め対外的に情報発信することです.前者は学問が細分化され過ぎたことへの反省とも関連します.これらは時代の流れと考えられ,多くの他の研究分野においても行われています.近い学会同士が互いに牽制する時代ではありません.6学会がそれぞれの特徴を活かしつつ協業する,それらをスムーズに行うための組織が連合,それらを実現する場が連合大会であると思います.
連合大会を開催することで,少なくとも数の上では,これらの目的を達成しつつあると思います.特に,若い会員が増えていることは頼もしい限りです.しかし,われわれ企画委員会が連合の特質を活かした魅力あるプログラムを編成したかと問われますと,残念ながら自信はありません.会員の皆様のアクティビティの高さに乗っかって受身の仕事をしただけのように思います.やはり,連合の特徴を理解する企画委員がそれを活かした積極的なプログラムを編成すべきではなかったかと反省しています.一つ言い訳をさせて頂くなら,企画委員は良いプログラムを提供するという職務に専念できず,その他の各種の雑務に追われる実態があります.たとえば,講演申込受付システムの構築,多方面からの問合せや依頼への対応等です.今回,これらの業務を軽減させるひとつの手段として冊子体プログラムの作成を取り止め,そして,報告集では索引を廃止しました.
連合大会の目玉に成長した企画にコンペティションセッションがあります.若い会員の皆様に「連合大会で立派な講演をしたい」というモティベーションを高める企画で,審査発表のある閉会式には多くの方々が来て下さいました.コンペティションセッションの実施方法には難しい面があり,当セッションで講演を考えておられる方にはご迷惑をおかけしているかもしれません.今年は3つあったコンペティションセッションで最初のセッションを除いて審査者数が十分でないという問題が生じました.それはコンペティションセッションの並行セッションの中に極めて集客力が高いものがあったからだと考えられます.この種の問題は,昨年度のように事前審査を取り入れ講演件数をしぼり,昼間の並行セッションが無いところで行えば解決するかもしれません.一方,事前審査を取り入れることは講演内容に加えてプレゼンテーションの技術をも評価の対象とする当セッションの趣旨に合致しないこと,そして,事前審査のための十分な情報と時間を要求します.
吉村功先生による「21世紀に向けての統計科学」と題された論文には『一般の統計学の講義に面白さを感じる学生は極めて少ない.筆者のところに限らず,いろいろな大学の統計の研究室にいる学生,そこを出た学生に,統計を学んだり研究しようとしたきっかけを聞くと,たいていは,先生の個人的魅力,個人的な研究内容紹介をあげる.統計学自体を魅力的な学問だという学生にはめったに会うことがない.』とあります(日本統計学会誌 1999年 第29巻 3号,p.358).この指摘から10年近くを経て状況は改善しているでしょうか.大学教育において,学位(卒業・修士・博士論文)に直結する指導が重要視されるようになった今,多くの学生を育て,そして彼らが社会で活躍することが肝要です.連合と連合大会はこういったことへの取り組みも求められるように思います.
統計科学から見て,学会は次の3つのタイプに分類できると思います.すなわち,(A) 特定の応用分野への指向が強くない学会,(B) 特定の応用分野における統計的方法論を発展させる学会,(C) 特定の応用分野(実質科学)の学会,です.現在の統計関連学会連合は(A)または(B)の学会の連合ですが,今後は,(B)をより充実させ(C)との連携を探る必要があるように思います.
統計関連学会は多くの問題を共有しています.各学会が連合と連合大会を活用することによって,お互いの問題が少しでも解決の方向へ向かうことができればと思います.
以上