市民講演会
市民講演会は下記のテーマについて,お二人の方に講演していただきます。
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日時: 2006年9月5日(火) 17:00-19:00
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場所: 大会会場
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参加費: 無料
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テーマ: 「人口減少と少子高齢化の社会と経済 − 統計データで読む21世紀の日本 −」
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講演1: 人口統計データの示す日本の過去、現在、そして未来
講師: 金子隆一(国立社会保障・人口問題研究所)
要旨:
日本の人口は今歴史的な転換の直中にあります。
明治以降、近代化とともにたどった人口増加は終焉を迎え、今後21世紀の間は恒常的な減少が見込まれています(図1)。
また、日本は今世界で最も高齢化の進んだ国となっており、さらに超高齢化への道を歩んでいます。
人口統計はそうした様子をつぶさに記述してきました。
そして来るべき将来の姿も示しています。
しかし、人口統計は単に人口の増減や年齢構成の変化を記述するだけのものではありません。
むしろ人々のライフコースを観察の対象として、それを定量的に捉えるための科学的データと方法を与えるものなのです。
というのも、私たちが直面する人口減少や少子高齢化は、日本人のライフコースの急速な変化がもたらしたものですし、また日本の将来人口の姿も、すべて私たち一人一人がこれからたどる生涯の道筋が決めることになるからです。
人口統計には、人口増加率、出生率、死亡率などのいわゆるマクロ指標のほかに、人々のライフコースに注目したライフコース指標があり、個人の生き方に何が起きているのかを理解することに貢献しています。
たとえば、平均寿命や合計特殊出生率などはその代表例です。
国全体の死亡の起こり方を寿命として表したり、一方で子どもの生み方を女性が生涯に生む子ども数として表現したりして、理解を促しています。
ところが、実はそうした馴染みやすい指標にこそ落とし穴があり、おうおうにして間違った理解や間違った議論を導いています。
たとえば、平均寿命とはいったい誰の寿命の平均なのかわかりますか?
女性が生涯に生む平均の子ども数といいますが、今まさに子どもを生んでいる人たちは、まだ生涯の途上なのに、どうやって生涯の平均子ども数を計算するのでしょう?
こうしたことを知らないと、人口統計がせっかく私たちの生き方に起きている変化を指し示していても、正しい議論にはつながりません。
これから日本人はどう生きてゆくのか、どういう社会を築いてゆくのか、国民的な議論と合意がますます重要になってくると思うのですが、そうした議論に科学的な視点を与えるためにも、統計の正しい理解が必要です。
この演題の中では、まずこうした指標の見方について解説します。
その上で日本人のライフコースに視点をおきながら、人口統計の示す過去から現在、そして未来にわたる日本社会の変化についてお話したいと思います。
最後にこれらの変化の持つ意味についても、考えてみたいと思っています。
講演者略歴:
東京大学理学部生物学科卒業(1980年)
東京大学大学院理学系研究科修士課程修了(1982年)
ペンシルバニア大学大学院博士課程修了(1989年)
プリンストン大学フェロー、ロックフェラー大学客員研究員などを経て
現在、国立社会保障・人口問題研究所、人口動向研究部長
専門は、人口統計学
講演2: 少子・高齢化の下での社会保障制度改革
講師: 橘木俊詔 (京都大学大学院経済学研究科)
要旨:
少子高齢化を迎えて国民の間に社会保障制度への不安感が高まっている。
政府の採用する政策は、保険料負担の増加と給付の削減の連続である。
これでは国民の不安感は減少しない。
発想の転換を図る必要がある。
そのために、年金に関しては財源の徴収を基礎年金全額税方式に変更し、給付も2人で月額17万円を支給する。
この額は高齢夫婦が最低限生活できる額である。
公的年金は一階部分の基礎年金だけに限定し、平均15%の累進消費税で徴収する。
2階部門は民営化して積立方式で運営する。
この制度改革は国民すべてに老後の安心感を与えるし、経済効率も高まというメリットがある。
さらに保険料徴収がうまく進んでいない現状を打破できる。
なぜこの制度改革が望ましいか、そしてありうる反論への回答については、具体的に講演でお話します。
主として年金制度改革案を述べたが、医療と介護についても言及します。
講演者略歴:
ジョンズ・ホプキンズ大学大学院博士課程修了(Ph.D)
京都大学大学院経済学研究科教授
現日本経済学会会長
専門は労働経済学・マクロ経済学・応用計量経済分析