清水 泰隆(東京大学大学院数理科学研究科 博士課程2年)
この度は,大変名誉な賞を頂きましてありがとうございます.まずは心より御礼申し上げます.今回の仕事は,近年,ファイナンス等で特に重要になってきた,無限個のジャンプを含む確率微分方程式に関する推測論を扱いました.中でも,離散観測による推測論は現実的な要請があって,特に重要です.今回の設定では,有限時間内における無限個のジャンプという,奇妙な状況の情報をいかにつかむかという工夫が必要でした.出来上がって見れば,理論の見た目は単純でしたが,その下の数理的正当性を得るための証明には難儀しました.その苦労と重要性をご理解いただけたのであれば,これ以上の喜びはありません.
ところで,私は,学会やセミナー等で各地を訪れる時,空いた時間でその土地を探訪する事を楽しみの一つにしています.この度の統計関連学会連大会の開催地岩手県は,初めて訪れたので楽しみではあったのですが,なにぶん広大な面積を持つ土地で,短時間ではなかなか足を伸ばせませんでした.しかし,街道をバスに揺られているだけでも独特の風土を感じる地でありました.
源平の昔,奥州藤原十七万騎と謳われ権勢であった黄金の産地も,その後,維新までの歴史的経緯を知るにつれ,ある種の悲哀を感じずにはおれません.時代の影響を受け続け,転換を迫られてきたという点において,これは統計学の歴史とも似ているような気がしてきました.というと,言い過ぎかもしれませんが,統計学も,時代の影響を受け,それに追従する形で発展を遂げてきたと思います.本来の統計学は,現実との関わりがなくしては有り得ないからです.歴史に学ぶとすれば,未来の統計学者たちに,我々がこれから築く歴史に悲哀を感じさせてはなりません.ある意味,時代を先導する統計学となっていくべきでしょう.そのために,微力ながら尽力できれば幸いと,温泉につかりながら,ふとそんな事を考えてしまう雰囲気をもった土地.岩手での統計学会は,やはり大変有意義でした.
これからもご指導賜りたく,お願い申し上げます.