2004年度市民講演会報告
企画担当 美添泰人(青山学院大学)・柴田里程(慶應義塾大学)
2004年9月3日から6日まで花巻市の富士大学で開催された統計関連学会連合大会の機会を利用して,9月3日に「市民講演会」が開催された.
市民講演会では従来からさまざまな主題が取り上げられてきたが,今回の主題は「統計データが示す地域経済活性化の方策」と設定した.これは,連合大会開催の地元である花巻市,北上市およびそれぞれの商工会議所から,地域経済活性化という視点で,統計の利用可能性を知りたいという希望が寄せられ,そのような期待に応えるために,関連学会が協力して実施したものである.
企画に当たっては,学会全体の世代構成などを考慮に入れながら,講演内容を検討した.その結果,まず,地元の企業を対象として富士大学が実施した企業アンケート調査から明らかにされる内容を紹介し,続いて,その調査に比較的新しい分析手法を適用して得られた情報を対照する形で紹介することとした.最後に公式統計の中で地方に関する情報を得ることが可能な主要統計とその利用方法を紹介し,全体として調査と分析,理論と実際のそれぞれの側面から,総合的に統計データの果たす役割を提示することを計画した.
当日は,企画担当者の一人である美添が座長を務め,趣旨説明の後で3人の講師による講演が行われた.具体的な内容は以下のとおりである.
講演1.「東北域内産業集積地における企業アンケート調査の概要」
武井安彦(富士大学)
この講演では,アンケート調査の目的と方法を紹介した後で,業種,資本金,従業員数,営業利益,製品,経営資源などの回答した企業の基本的特徴の要約,および「地域企業の研究開発の状況」が紹介され,それに基づいて,循環型・高齢化社会への対応などの視点から. 地域企業の求めるものと求められる姿が論じられた.
講演2.「新事業支援強化に関するアンケート調査からわかること」
熊坂夏彦(慶應義塾大学)
ここでは上記のアンケート調査について,さまざまな角度から統計的解析を行った結果が紹介された.特に,研究開発やITの導入状況などの要因が「市場公開の意思」をどのように左右するかを探索した結果から「自社独自の研究開発に力を入れつつ積極的に外界との交流を図る企業が市場公開に対して意欲的である」という解釈が導かれるなど,グラフを中心とした分析を通じて,統計的な手法の有効性を平易に解説することに成功したと思われる.やや専門的な内容を含むので聴衆の反応が注目されたが,会場からの評価も好意的であった.
講演3.「地域統計とその活用」
大林 千一(総務省統計局)
最後の講演では,地域の社会・経済状況を統計データの面から把握する手法が示された.特に国の作成する主要な統計から花巻市,北上市を中心とするさまざまな情報の活用方法が多くの図や表を用いた例を交えながら紹介された.今回は,官庁統計の中心的な組織である総務省統計局において,現職の統計局長という多忙な立場にあるにも関わらず,大林氏自らが提示資料を作成されたとのことであった.わかりやすい内容であったことからか,聴衆の反応も最も活発であった.
午後5時30分開始という比較的遅い時間にもかかわらず,200名近い聴衆を前にして熱のこもった講演会となった.参加者の中には市民や企業関係者の他にも,官庁統計の企画や実施に携わる統計実務家など,市や県からも統計関係者の姿が見られたことは,今回の企画が評価されたものと考えてよければ,企画担当者の責任はある程度は果たせたということだろうか.
最後に,講演者はもちろん,会場の準備など献身的な協力をしていただいた富士大学の関係者,資料の準備などに気配りを頂いた関連学会の事務局関係者に対して,心より感謝の意を表したい.